これは何の話?
フェスで音楽を聴いたときに感じる、
「なんで音楽ってこんなに気持ちいいんだ?」
という疑問を、予測コーディング(Predictive Coding)と脳の報酬系から考えた発表。
ポイントは、脳が音楽をただ受け取っているのではなく、
「次はこう来るはず」
と予測しながら聴いているということ。
その予測と実際の音との差、期待、確信度、身体的なノリなどが複雑に絡み合って、音楽の快感が生まれている可能性がある。
まず結論
音楽が気持ちいいのは、
単に「いい音」が鳴っているからではなく、脳が次の展開を予測し、その予測と実際の音を比べ続けているから
と考えられる。
しかも面白いのは、曲の一番気持ちいい瞬間だけではなく、
「そろそろ来るぞ……!」
という期待の段階ですでに報酬系が動いていること。
だから、知っている曲でも、
次に何が来るか分かっているのに気持ちいい。
むしろ、
分かっているからこそ期待できる。
ということが起きる。
1. Knowledge ― 何を知ればいい?
脳は音楽を受け身で聴いていない
予測コーディングでは、脳は外から来た情報をそのまま受け取るだけではなく、
「次はこうなるはず」
という予測を常に作っていると考える。
音楽でも同じで、
次の拍
次のメロディ
次のコード
などを、過去の経験や文化的背景から予測している。
内部モデル
その予測に使われるのが内部モデルである。
これは簡単に言えば、
これまでの経験から脳内にできた「音楽ってだいたいこういうもの」という予測ルール
のようなもの。
たとえば、あるジャンルをたくさん聴いていると、
「この流れなら次はこうなりそう」
という感覚が自然に形成される。
この内部モデルは、過去の音楽体験や文化によって変わるため、
同じ曲でも、人によって感じ方が違う
理由の一つになり得る。
2. Practice ― 脳の中では何が起きている?
予測する
まず脳が、
「次はこうなるだろう」
と予測する。
↓
実際に音が来る。
↓
予測と実際を比較する。
↓
違っていれば、そのズレを使って内部モデルを更新する。
このズレが**Prediction Error(予測誤差)**である。
「当たったら気持ちいい」だけではない
ここで、
予測が当たる = 気持ちいい
予測が外れる = 気持ちいい
という単純な話ではない。
発表では、
Uncertainty(不確実性)
と
Surprise(サプライズ)
という概念が紹介された。
Uncertainty
音が来る前に、
「次に何が来るか、どれくらい分からないか」
という状態。
Surprise
実際に音を聞いた後に、
「思っていたものと比べて、どれくらい意外だったか」
というもの。
つまり、
来る前の分からなさ
と
来た後の意外さ
は別の概念として考える必要がある。
3. Inherent Talent ― なぜ「来るぞ……!」が気持ちいい?
報酬はピークだけで出るわけではない
音楽を聴いて強い快感を感じたとき、脳の線条体ではドーパミンの放出が確認されている。
ただし、面白いのはそこだけではない。
発表では、
快感のピークそのものと、その直前の期待の段階で、異なる領域の報酬系が活動する
ことが紹介された。
つまり、
「来た!!!!」
だけではなく、
「来るぞ……来るぞ……」
の時点ですでに気持ちいい。
知っている曲でも気持ちいい理由
普通に考えると、
全部知ってる曲なら驚きがないから飽きるのでは?
と思う。
しかし実際には、好きな曲を何度も聴くことがある。
これは、
展開を知っているからこそ、ピークを予測し、期待できる
と考えることができる。
たとえばライブで好きな曲が始まって、
「このあとあそこ来るぞ……!」
↓
「来た!!!!!!」
となる。
ここでは、
予測
期待
実際の到達
という一連の流れそのものが報酬になっている。
4. Value ― 「気持ちいい曲」は何で決まる?
発表の重要なポイントは、
音楽の快感は一つの要因だけでは説明できない
ということ。
紹介された要素には、
内部モデル
Prediction Error
Precision
Anticipation
Groove
などがあった。
Precision ― どれくらい自信を持って予測しているか
同じ予測誤差でも、
「絶対こう来る!」
と思っていたときの外れ方と、
「まあどっちでもありそう」
と思っていたときの外れ方では、意味が違う。
そこで関わるのがPrecisionである。
これは、
自分の予測をどれくらい確からしいと思っているか
という重みづけに近い。
予測誤差の大きさだけではなく、
どれくらい確信していたか
まで含めて考えないと、音楽の快感は説明しきれない。
Groove ― 音楽は頭だけで聴いているのか?
さらに発表では、
身体を動かしたくなる感覚
であるGrooveも重要な要素として挙げられた。
音楽を聴いて、
首を振る
足で拍を取る
飛び跳ねる
といった反応は、単なる聴覚情報だけでは説明しきれない可能性がある。
つまり音楽の快感は、
耳 → 脳
だけではなく、
予測
運動
身体感覚
まで含めた現象として考える必要がある。
質疑応答から見えてきたこと
AIは「もっと気持ちいい曲」を作れるのか?
質疑では、
AI作曲で、人にもっと刺さる曲を作ることはできるのか?
という話が出た。
確率的に自然なメロディを生成するだけなら、
無難で聞きやすい音楽
は作れるかもしれない。
しかし、
その人にとって「気持ちいい」曲
を作ろうとすると、話は難しくなる。
なぜなら、内部モデルは人によって違うからである。
パーソナライズが重要になる?
ある人はロックを大量に聴いている。
ある人はジャズを聴いている。
ある人は電子音楽が好き。
すると、
予測している展開
気持ちいい裏切られ方
期待するリズム
も異なる可能性がある。
さらに、
身体を動かしたいのか
静かに没入したいのか
によっても違う。
そのため発表では、
より人に刺さるAI作曲には、その人の音楽経験やジャンル嗜好、グルーヴなどを含めたパーソナライズが鍵になるのではないか
という議論になった。
予測誤差とサプライズは同じ?
質疑では、
Prediction ErrorとSurpriseは何が違うのか?
という質問も出た。
発表では、
Prediction Error
:予測と実際のズレ
Surprise
:実際の音がどれくらい意外だったか
として整理された。
また、
Uncertainty
:音が来る前
Surprise
:音が来た後
という時間軸での違いも紹介された。
ただし、これらの概念が快感にどう影響し合うかについては、単純な一つの式で説明できる状態ではない。
どの要素が一番重要なのか?
さらに、
確信度が高い状態で予測を裏切られる場合と、低い状態で裏切られる場合では、快感はどう変わるのか?
という質問も出た。
今回紹介された研究では、予測コーディングの枠組みや概念は整理されているものの、
各要素がどの程度の重みで相互作用するか
については、まだ明確に解明されていない部分が多いという話になった。
つまり、
「予測誤差が○なら快感が○」
という単純な関係ではない。
この発表から考えられること
この話を聞くと、
「好きな音楽」は音そのものだけで決まっていない
ということが見えてくる。
同じ曲でも、
初めて聴いたとき
と
100回聴いたあと
では内部モデルが違う。
同じ曲でも、
家で一人で聴く
のと
ライブ会場で何千人と聴く
のでは体験が違う。
同じ展開でも、
そのジャンルを知っている人
と
初めて聴く人
では予測が違う。
つまり、
曲の中に「気持ちよさ」が固定的に入っているというより、曲と脳と経験の相互作用の中で気持ちよさが生まれる
と考えることができる。
フェスで気持ちよさが増えるのはなぜ?
発表の最後には、
音楽の気持ちよさは、音の物理的性質だけなのか?
という問いが残った。
たとえばフェスなら、
大音量
身体に響く低音
照明
周囲の人間
一緒に盛り上がる感覚
その場所まで来た記憶
などが存在する。
これらも内部モデルや期待、身体反応に影響している可能性がある。
だから、
「音楽を聴いている」というより、「音楽を中心とした体験全体」を脳が処理している
と考えたほうが近いのかもしれない。
「好きな曲」は予測しやすい曲なのか?
ここでも単純ではない。
予測しやすすぎる曲なら、
全部そのまま来る。
すると退屈になる可能性がある。
逆に予測不能すぎると、
何が起きているか分からない。
これも気持ちよくない可能性がある。
つまり音楽には、
「ある程度予測できるけど、完全には予測できない」
というバランスがあるのかもしれない。
知っているパターンがある。
↓
だから期待できる。
↓
でも少しだけズレる。
↓
そのズレを理解できる。
↓
また次を予測する。
この循環そのものが、音楽を聴き続ける面白さにつながっている可能性がある。
前回までの認知科学とつなげて考える
これまでの発表では、
ナッジ
拡張された心
認知負荷
などを通して、
人間は自分が思っているほど単純には情報を処理していない
という話が出てきた。
今回の音楽も同じである。
本人としては、
「この曲好き!」
としか感じていなくても、
脳内では、
過去の経験
次の音の予測
予測誤差
確信度
報酬系
身体反応
が複雑に動いている可能性がある。
認知科学や神経科学のおもしろさは、
「なんとなく好き」「なんとなく気持ちいい」の裏で何が起きているのか
を少しずつ分解していけるところにもある。
まとめ
脳は音楽をただ聞いているのではない。
次に何が来るかを予測しながら聞いている。
実際の音が来ると、その予測との差を使って内部モデルを更新する。
そして音楽の快感には、
予測誤差
不確実性
サプライズ
確信度
期待
グルーヴ
など、複数の要素が関わっている。
さらに、脳内報酬は音楽のピークだけではなく、
「もうすぐ来る!」
という期待の段階から始まっている。
だから、好きな曲を何度も聴いても気持ちいい。
知っているから飽きるのではなく、
知っているから期待できる
という側面がある。
そして、気持ちよさは曲だけに存在するのではなく、
聞く人の経験
文化
身体
環境
まで含めて生まれている可能性がある。
つまり、
音楽の快感とは、「音」と「脳」と「経験」が一緒に作っているもの
と考えることができる。
👶 ドパガキ向け:つまり何?
曲:
「ジャーン♪」
脳:
「次こう来るな。」
曲:
「ジャーン♪」
脳:
「来た!!!!!」
↓
気持ちいい。
曲:
「次サビ来ます。」
脳:
「知ってる知ってる!!!!」
↓
「来るぞ……来るぞ……」
↓
サビ:
ドーーーーン!!!!
脳:
「うおおおおおおお!!!!」
↓
ドーパミン:
「もうサビ来る前から出てます。」
人間:
「でもこの曲100回聴いてるのに何で気持ちいいの?」
脳:
「100回聴いたから次が分かる。」
人間:
「うん。」
脳:
「分かるから待てる。」
人間:
「うん。」
脳:
「待ってたのが来る。」
人間:
「うおおおおお!!!!」
超結論
音楽は「音がいいから気持ちいい」だけじゃない。
脳が、
予想する
↓
待つ
↓
来る
↓
ちょっと裏切られる
↓
また予想する
をずっとやってる。
そして、
「次、あそこ来るぞ!!!!」の時点でもう気持ちいい。
だから好きな曲は何度聴いても気持ちいい。
しかも、
どんな音楽を今まで聴いてきたか
どんなジャンルが好きか
身体を動かしたいか
ライブなのか家なのか
でも変わる。
つまり、
「いい曲」だけじゃなくて、
「曲 × お前の脳 × お前の経験」で気持ちよさが決まってるっぽい。
という話!!!!!
