認知負荷から考える「分かっているのにできない」について

これは何の話?

「やり方は分かっているのに、本番になるとなぜかできない」

という現象を、**認知負荷(Cognitive Load)**という観点から考えた発表。

FF14の高難易度レイドでは、

ギミックを説明できる

動画も見た

予習もした

にもかかわらず、実際の戦闘ではミスすることがある。

これを単純に、

「理解していない」

「予習が足りない」

と考えるのではなく、

人間が一度に処理できる情報量には限界があり、本番ではその限界を超えているのではないか?

という視点から、Sweller(1988)の認知負荷に関する研究をもとに考えた。


まず結論

人間には、

頭の中で同時に処理できる情報量に限界がある。

そのため、

「知っている」

ことと、

「その場で実行できる」

ことは別である。

本番では、

画面を見る

状況を判断する

覚えた解法を思い出す

自分の操作をする

他人の位置を見る

タイムラインを確認する

などを同時に処理しなければならない。

すると、

知識がないのではなく、知識を使うための「頭の空き容量」がなくなる

ことがある。

だから重要なのは、

「もっと覚えろ!」

だけではなく、

「考えなくてもできる部分を増やして、頭の空き容量を作れないか?」

という発想になる。


1. Knowledge ― 何を知ればいい?

人間の頭には「容量」がある

人間が一度に情報を処理するために使える認知資源、特にワーキングメモリには限界がある。

たとえば、

難しい暗算をする

だけならできる。

人と複雑な話をする

だけでもできる。

しかし、

難しい暗算をしながら複雑な会話をする

となると、一気に難しくなる。

能力が突然低下したわけではない。

二つの処理が同じ認知資源を奪い合っていると考えることができる。


2. Practice ― 「問題を解く」と「学ぶ」は同じではない

発表で紹介されたのが、

Sweller, J. (1988).
Cognitive load during problem solving: Effects on learning.

という研究である。

この研究の興味深いポイントは、

問題を頑張って解くことが、場合によっては学習を邪魔することがある

ということだった。

普通に考えると、

たくさん問題を解く

たくさん考える

たくさん学習する

と思いやすい。

しかし、必ずしもそうではない。

なぜなら、

「問題を解くこと」そのものにも頭の容量を使うから。

問題を解くことに頭を使い切ってしまうと、

「この問題って、こういう構造になっているのか」

という学習に使える余裕がなくなる可能性がある。


3. Inherent Talent ― 頑張って考えるほど学べないことがある?

手段目標分析

人間が問題を解くときによく行う方法として、**手段目標分析(Means-Ends Analysis)**が紹介された。

簡単にすると、

今どこにいる?

ゴールはどこ?

何が違う?

何をすれば差が縮まる?

次はどうする?

という方法である。

一見、とても合理的である。

しかし複雑な問題では、

現在の状態

最終的なゴール

その差

使える方法

次のサブゴール

などを同時に頭の中へ置いておかなければならない。

そのため、問題を探索するだけで大量の認知資源を消費してしまう。


「ゴールをなくしたら、むしろ学習できた」

Swellerの研究では、この問題を調べるために異なる問題設定が比較された。

普通の問題

たとえば、

「この角度を求めなさい」

と指定する。

すると、

求める角度はこれ

今分かっているのはこれ

この差を埋めるには?

まずこっちを計算して……

と、ゴールから逆算して探索する必要がある。

ゴールフリー問題

一方、

「この図から求められるものを自由に求めなさい」

とする。

特定のゴールがないため、

ここ分かる

じゃあこれ計算できる

これが分かったから次はこれ

と、手元にある情報から順番に処理できる。

その結果、発表で紹介された実験では、ゴールフリー群のほうが問題の構造や解法の順序などをよく記憶・学習できていた。

探索に頭を使わなくなったぶん、

「問題そのものを理解する」ために認知資源を使えるようになった

と考えられる。


4. Value ― これをFF14に持ってくるとどうなる?

「説明できるのにミスする」の正体

高難易度レイドでは、本番中に非常に多くの処理が要求される。

たとえば、

画面から必要な情報を探す

今どのギミックなのか判断する

覚えている解法を思い出す

自分の担当を確認する

適切な場所へ移動する

他人の位置を見る

スキルを使う

次のギミックも考える

という処理を並行して行う。

この状態でミスしたとしても、

その人がギミックを理解していないとは限らない。

単純に、

本番で要求される処理量 > その瞬間に使える認知資源

になっている可能性がある。


じゃあ、どうすればいい?

重要になるのが、

「本人をもっと頑張らせる」のではなく、「頭を使わなくていい部分を増やす」

という考え方である。

発表の質疑では、攻略初期に大量の情報や複数の処理方法が存在すると、それだけで探索コストが高くなるという話が出た。

たとえば、

「A方式でもできます」

「B方式でもできます」

「この図もあります」

「別の動画ではこう動きます」

「野良ではこっちです」

と情報を大量に渡す。

一見すると親切に見える。

しかしプレイヤー側では、

「結局どれ使うの???」

という新しい問題が発生する。

それを毎回判断するために認知資源が消費される。


選択肢を減らす

そこで、

「この固定では、この図・この解法・この立ち位置でやります」

と統一する。

すると、

どの方式を使う?

という探索そのものが不要になる。

そのぶん、

実際にどう動くのか

どのタイミングで動くのか

という学習に頭を使える。

つまり、

情報を増やすことが、必ずしも学習を助けるわけではない。

場合によっては、余計な選択肢を消してあげることのほうが重要になる。


「スキーマ」を作る

もう一つ重要なのが、**スキーマ(知識構造)**である。

簡単に言えば、

バラバラだった情報が「ひとまとまりのパターン」として扱えるようになった状態

と考えることができる。

初心者には、

Aを見る

Bを確認する

Cなら右

Dなら左

その後E

という5個の処理に見えるものが、

慣れた人には、

「いつものあの処理」

という1個のまとまりになる。

すると、頭の中で同時に保持しなければならない情報量が減る。

だから経験者ほど、同じギミックでも余裕を持って処理できる。


チームでスキーマを共通化する

質疑では、

同じ言葉や図を見ていても、全員が同じように理解しているとは限らない

という問題も議論された。

たとえば、

「右」

と言ったとき、

誰から見て右なのか。

「外」

とはどこなのか。

「いつもの位置」

とはどこなのか。

こうした言葉の意味を毎回解釈し直していると、そのたびに認知資源を使う。

そこで、

言葉

立ち位置

処理パターン

判断基準

をチーム内で定型化する。

すると、

「考えなくても意味が通じる」

状態が増えていく。

これによって、ワーキングメモリをより重要な処理へ使えるようになる。


質疑応答から見えてきたこと

「もっと予習して」は本当に解決策なのか?

知識不足なら、もちろん予習には意味がある。

しかし、

知識はあるのに、本番で実行できない

という人に、さらに情報を追加するとどうなるのか。

場合によっては、

情報が増える

選択肢が増える

本番で判断することが増える

認知負荷が増える

さらにミスする

という逆効果も考えられる。

だから、

「何を知らないの?」だけでなく、「本番で何を同時に考えさせているの?」

を見る必要がある。


前回の「チームの機能不全」とつなげて考える

前回の発表では、同じ高難易度攻略を、

連結的タスク

知識の呪縛

心理的安全性

などから分析した。

今回の認知負荷という視点を加えると、さらに別の見方ができる。

たとえば、

「他人を見る余裕がない」

という状態。

これは性格や協調性だけではなく、

自分の処理だけで認知資源を使い切っている

可能性もある。

攻略終盤になると処理が定型化され、タイムラインも頭に入り、自分の動きを考えるための認知負荷が下がる。

すると初めて、

他人を見る

軽減を確認する

声を掛ける

といった処理へ認知資源を使えるようになる。

つまり、

「余裕がある人ほど周囲を見られる」のではなく、「処理が自動化された結果、周囲を見るための余裕が生まれる」

とも考えることができる。


この発表から考えられること

この話はゲームだけではなく、仕事や勉強にも当てはめられる。

誰かが失敗したとき、

「ちゃんと覚えて」

「前にも説明したよね」

「分かってるならできるでしょ」

と言いたくなる。

しかし、

理解していることと、複雑な状況でその知識を取り出して実行できることは別能力である。

と考えると、対応が変わる。

「本人の能力を上げる」だけではなく、

選択肢を減らせないか

表示を分かりやすくできないか

手順を固定できないか

用語を統一できないか

一度に要求する処理を減らせないか

と、環境側を設計することができる。

これは、

「人間をシステムに合わせる」のではなく、「人間の認知特性に合わせてシステムを作る」

という発想にもつながる。


「できない人」ではなく「できない状態」

この発表から特に持ち帰りやすい視点は、

人ではなく、状態を見る

ということかもしれない。

同じ人でも、

落ち着いて説明するとできる。

しかし、

時間制限

大量の視覚情報

複数の判断

操作

他人との連携

が同時に要求されるとできなくなる。

ならば、

「この人は理解できていない」

と決めつける前に、

「この状況、人間に何個のことを同時に考えさせている?」

と考えてみる。

能力不足に見えていたものが、実は設計上の認知負荷だったということもあり得る。


まとめ

人間の認知資源には限界がある。

そして、

問題を解くことと、問題から学ぶことは同じではない。

複雑な問題を解こうとして探索に頭を使いすぎると、問題の構造そのものを理解・学習する余裕がなくなることがある。

FF14でも同じように、

ギミックを知っている

ことと、

本番で実行できる

ことは別である。

だから、

「もっと覚えろ」

だけではなく、

「覚えていることを使えるだけの頭の余裕を作れているか?」

を見る必要がある。

そのためには、

選択肢を減らす

解法を統一する

言葉を共通化する

パターン化する

考えなくてもできる処理を増やす

ことが重要になる。

つまり、

人間の頭を強くするだけではなく、人間の頭が楽になるように問題を設計する。

それもまた、学習やチーム攻略を改善する方法の一つである。


👶 ドパガキ向け:つまり何?

先生:

「このギミック分かる?」

ぼく:

「分かる!!!!説明もできる!!!!」

先生:

「じゃあ本番いってこい!」

本番:

ピカッ!!!!

ドカーン!!!!

タイムライン!!!!

自分のスキル回し!!!!

他人の位置!!!!

次のギミック!!!!

脳:

「あっ」

ワイプ!!!!!!!!

先生:

「予習した???」

ぼく:

「した!!!!!!!!」


認知科学:

「いや、こいつ知識はあるぞ。」

先生:

「じゃあなんでできないの?」

認知科学:

「脳みそのメモリ足りてない。」


攻略サイト:

「処理法Aがあります!」

別サイト:

「B方式もあります!」

動画:

「C式がおすすめ!」

固定:

「D式にしよう!」

脳:

「どれ?????????」

固定:

「これだけ覚えて。この図だけ見て。この位置に立って。」

脳:

「それならできる!!!!」

超結論

「分かってるのにできない」=「分かってない」とは限らない。

頭の中に知識があっても、

同時に10個考えさせたら脳みそがパンクする。

だから、

人間をもっと頑張らせる前に、考えなくていいことを減らせ。

選択肢を減らす!

言葉を統一する!

動きをパターン化する!

余計な判断を消す!

すると、

脳みその空いたところで本当に大事なことを考えられる。

つまり、

「できない人」を責める前に、「この状況、脳みそに無茶させてない?」を疑おう。

という話!!!